今回アルバム内には曲目解説がありませんので、こちらにてこの魅力的な楽曲たちの紹介をさせていただきます。真面目なようでちょっと裏話も混ぜ込みつつ、、曲目とともに楽しんでいただければ幸いです。
"Musica y Danza" = "音楽と踊り"
たくさんの可能性を秘めた弦楽四重奏の世界。伝統的な分野においては名作が数多くありますが、世界的に見ても新たな分野での発展が遅く、楽譜に至っては壊滅的。プロの演奏家たちがポピュラー音楽を弦楽四重奏で演奏したいと思っても「使える」アレンジのものがほぼないため自分たちで音を少し変えながら演奏しているという現状です。
どのジャンルも愛してやまないSAYAKAを中心とする仲間がこの世界を広げるために始まったプロジェクト。弦楽四重奏に馴染みのない方、クラシックを主体に演奏する、聴く方々にも心地よいものを、とクラシックの精鋭たちと繰り広げる弦楽四重奏の新しいカタチ。そしてあらゆる方向へ変貌していくために、ジャズ、ワールドミュージック、ポピュラーなど様々な分野のアーティストを分け隔てなくゲストに迎えていく予定です。
弦楽四重奏の録音は想像以上にシビアで体力のいるものでした。クラシックの現場では実は直しを入れるケースが多いようですが、4つしか音がない世界ですから可能な限りそのままの音を、というコンセプトで何度も何度も弾きました。演奏場所は2箇所、楽曲によってエフェクトをかけたり、なるべくそのままの音を残したりと調整しています。ですから録音のエンジニアは5人目のバンドメンバーとも言えるわけです。
キューバでの録音メンバーは全員クラシックもポピュラーもしっかりこなす現在一番忙しいプレーヤーたち。そして参加する予定ではなかったドラマーのオラシオ"エル・ネグロ"エルナンデスが「世界で誰もやっていないことをやらなきゃ」と多忙な中駆けつけてくれて幸せな共演が叶いました。ビックリするほどバンドサウンドに。いずれ日本にも来てもらいたいと思っています。
今回のデビューアルバムは序章にすぎず、選曲はとにかく楽しく演奏できるものを詰め込みました。すでに次のステップに向けて楽曲も演奏も準備が始まっております。
1. Maraguena / Ernesto Lecuona(マラゲーニャ / エルネスト・レクオーナ)
キューバのガーシュインと呼ばれる、クラシックとポピュラー音楽において欧米で活躍したレクオーナのピアノ作品、スペイン組曲「アンダルシア」の終曲。様々なアレンジで親しまれるこの楽曲は、ベルリンフィル、バレンボイム指揮による演奏でも世界の人に親しまれています。チェロ、ヴィオラによる情熱的なメロディーとヴァイオリンの華やかな高音でスペイン、アンダルシアの彩り豊かな情景を表現しています。4本の音で壮大な世界観を表現する為に演奏を重ね、メンバーのアイデアを多く取り入れて仕上げた作品です。
2. La Conga de Media Noche / Ernesto Lecuona(ラ・コンガ・デ・メディア・ノーチェ / エルネスト・レクオーナ)
同じくレクオーナのピアノ楽曲。真夜中のコンガというタイトル通り、ダンス音楽を感じるベースライン、パーカッシヴなメロディーがとても個性的な作品。後半部の緩やかな美しいメロディーは19世紀末キューバの社交界で演奏されていたダンス音楽を彷彿とさせる。軽快なテンポで打楽器の魅力を表現するピアノに対して、弦楽器ならではの響きを活かすため少しゆったりしたテンポで演奏しています。ヴァイオリン2本で同じメロディーをオクターブ違いで演奏するユニゾン部分は「気持ちが一つ」にならないと成し得ません。高音が華やかで魅力的な景澤恵子が下界をチョロチョロ覗き、それに付いてゆきたくてバランスを取る旅に出ているオクターブ下のSAYAKAという部分もお楽しみください。
3. Beethoven Contraddanza No.7 / SAYAKA(ベートヴェン・コントラダンサ / SAYAKA)
とあるオールベートーヴェンプログラムのコンサートのアンコールピースとして依頼を受け、交響曲7番の2楽章のモチーフを使用、思い切ってキューバンクラシック風にアレンジしました。キューバで生まれたチャチャチャ、ダンソン、コントラダンサという音楽のリズムを随所にちりばめ、楽曲としては、話題のジャスラックさんと相談しオリジナル作品としました。どこかアルゼンチンタンゴにも通づるような中南米ならではの優雅なダンス音楽をベースにベートーヴェンの静かなる情熱を描きました。どこかに"運命"が入り込んでいます、聴いてお確かめくださいませ。ちなみにメンバーは録音直前までどこに運命が入っていたのか感知しておりませんでした。音符職人らしいハナシです。
4. Summertime / George Gershwin(サマータイム / ジョージ・ガーシュウィン)
言わずと知れたガーシュインのオペラ「ポーギーとベス」のアリア。オリジナルの雰囲気を感じられつつ、ジャズのスタンダートしての形式を用いてアレンジ。中間のアドリブによって毎回サウンドが変わり、各パート自由なアプローチで楽しもうというスタイルになっています。
5. リンゴ追分 / 米山正夫
多くの人がカヴァーする美空ひばりが歌う名曲。6/8拍子のリズムによって全く違うイメージではありますが、メロディーや和音は原曲に忠実なアレンジになっています。あまり崩してはどこぞから怒られてしまいます。チェロが舞うような中間部の後、オリジナルのリズムに戻り、歌詞からも感じられる気怠さを弦楽器を活かして表現しました。ひばりさんの歌い回しをヴァイオリンでコピーすると、彼女独特の表情豊かかつ巧みな技法が魅力的であることに改めて気づきました。
6. Bolero / Maurice Ravel(ボレロ / モーリス・ラベル)
あまりに有名なメロディーで、この作品にメスを入れるのは勇気がいりましたが、敢えて全く違う和音を重ねてアレンジしました。イントロダクションの後のメロディーに対してチェロが半音ずつ下がっていくというアイデアが思い浮かびアレンジに取り掛かりました。ボレロ作曲当時あまりに独特で斬新な作風で話題となりましたが、各楽器のバランスを試しているかのような分厚いオーケストレーションを弦楽四重奏に書き換えることに一番慎重になった楽曲です。演奏家たちがテンポや強弱など試しながら演奏を重ねてきているように、私たちも録音後にはまた違ったテンポ、グルーヴで演奏しています。
7. スペイン風のワルツ / 香月修
'13年に新国立劇場委嘱のオペラ「夜叉ヶ池」書き下ろした作曲家香月修のピアノのための楽曲。コンクールや試験の課題曲として全国的に有名ですが、スペイン音楽を愛したラヴェルへの尊敬の気持ちがこもった美しい作風が子供達に人気。演奏するたびに、情景が思い浮かびました、と声をかけて頂きます。この楽曲のみご本人によるアレンジです。というか実父です。敬意を込めて。
8. Libertango / Astor Piazzolla(リベルタンゴ / アストル・ピアソラ)
踊れないタンゴを書き続けアルゼンチンで始めは認められなかったピアソラですが、欧米で大成功を収めた後母国でも愛される存在に。リベルタンゴはあらゆる楽器で演奏されていますが、弦楽四重奏アレンジはどれも似通って飽きてしまうアレンジが多いので、オリジナルをしっかり残しつつも、弾き甲斐のある斬新な仕上がりにしました。言い換えると難しいという事です。
9. 日本の歌 さくらさくら〜赤とんぼ〜ずいずいずっころばし〜朧月夜 / 日本古謡 山田耕筰 岡野貞一 童謡
幅広い年代の方々に聴いてていただきたく、日本の古い名曲を一緒に歌ってもらえるような楽曲をと思い立ちアレンジしました。ハーモニーは少し変えていますがメロディーはそのままに。日本にも美しい曲がたくさんある事を忘れないために。
10. Mariposa / SAYAKA(マリポーサ / SAYAKA)
SAYAKAキューバ留学時代に、娘のように私を可愛がってくれたCachaお母さん。彼女のお使いで白いユリ科のお花マリポーサをいつも買いに出かけていました。カラフルな街並みや優しい人々、楽しい会話に甘いお菓子。そんな日常を描きました。キューバで今大人気のヴァイオリニスト、ウィリアムの超絶アドリブも聴きどころです。
11. Moliendo Cafe / Jose M. Perroni(モリエンドカフェ / ホセ M. ペローニ)
日本ではコーヒールンバというタイトルでお馴染みのベネズエラの楽曲。叶わない恋に悩む青年の切ない物語。ドラムが入ることによってチェロがベースに聞こえてくるというマジック。サルサ、ソンなどダンス音楽のスタイルで各パートが複雑なシンコペーションを奏でています。後半部は同じコード進行を繰り返しラテン音楽の楽しさを表現、ゲストに国宝バンド「オルケスタ・アラゴン」のヴァイオリニストでSAYAKAの師匠でもあるラサロ・ダゴベルト・ゴンサーレスを迎えて華やかなサウンドに。
12. 行きゅんにゃ加那節 / 奄美大島民謡
中南米に負けず日本にも美しい島が沢山ありますが、その中の一つ鹿児島県の奄美大島。独自の音楽文化があり、踊りとともに今も夜な夜な島唄が聞こえます。沖縄と少し違って物悲しい曲が印象的で、島特有の別れの歌が本当に魅力的です。どこか懐かしいような、ついつい聴き込んでしまうメロディーに惹かれて今後も弦楽四重奏アレンジを続けていくつもりです。キューバでの録音ということで、同じ島でもアフリカ由来のリズムを活かした仕上がりになっています。全世界で人気のドラマー、オラシオの繊細かつゆったりと太いドラミングに感服。
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